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燈火小島の「特撮2次創作」の小説群。原作・制作者様とは無関係。勝手な空想の産物です。
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 お題配布サイト「追憶の苑」さんから、お題を借りてきました。特撮系とオリジナルでこなしていこうと思います。燈火島時代にアップしていたものも、いくつかサルベージ予定。

13:瞬きの間に消えゆくもの
 (龍騎/本編終了後)
 城戸と手塚の3度目(1度目は仮面ライダーとして、2度目は見知らぬ占い師として)の出会い。手塚は戦いを思い出しましたが、城戸は忘れています。
 実は、本編は手塚死亡で止まってしまっているので、以後どうなったのか、いまいちよくわかってません(wikipediaはみたけど)。優衣ちゃんの話題も出てきたりしますが……再生された世界にいなかったらどうしようorz

 海底を漂う魚というのは、この青さに心奪われているのだろうか。
 ゆっくりと館内を歩きながら、城戸はぼんやりとそんなことを思う。一緒に取材に来た桃井は、せっかくだから、と館長がくれたチケットを断り、さっさと帰ってしまった。
 水族館に漂う海の青が、追い立てられる日々の喧噪を忘れさせる。
 平日だからか、館内に人は少ない。青い暗がりをゆっくり歩く人もいれば、ベンチに座ってぼんやりと水槽を眺める人もいる。
 音楽もなく、人々のざわめきもない。身の内を流れる血潮のさざめきさえ聞こえそうな静寂は、心地よく、穏やかだった。のんびりと歩む城戸は、眠気にも似た安らぎに満たされていくのを感じる。
 小さな階段の先に、巨大な円筒形の水槽があった。数人が水槽を見上げ、あるいは、写真を撮っている。一戸建てがすっぽり入りそうなその水槽が、回遊する魚たちを閉じこめた、この水族館のメイン水槽だった。
 人々の後ろ姿をざっと眺め、ほんの数段の階段を下りる。刹那、誰かの悲鳴に思わず身をすくませた。
 体が流れた。手すりを握りしめ、かろうじて体勢を立て直す。素早く周囲を見回すが、誰も反応していない。ならば気のせいかとも思ったが、空耳にしては、あまりにもリアルすぎた。
 まるで、誰か親しい人が――。
(やめやめ!)
 頭を振り、少し勢いをつけて最後の2段を飛び降りる。
 誰かと、目があった。
 顔を上げた先にあるのは水槽で、城戸を振り返る人物などいない。だが、一瞬だけ誰かの視線を感じ、それがすぐに外されたと感じた。
 なぜ自分にそんなことがわかるのか――疑問にも思わないまま、城戸は、記憶に引っかかる色彩を見つけ出した。
 特徴的な赤いジャケット。まっすぐに背を伸ばし、魚たちの泳ぐ水槽を見上げる後ろ姿に見覚えがあった。
「あんときの……占い師!」
 周囲の人たちが驚いたように振り返る。慌てて口を押さえ、愛想を振りまいてみるが、胡散臭そうな目をして、彼らは立ち去ってしまった。
 ただひとり残った青年は、動じることもなくゆっくりと振り返った。感情の凪いだ、秘やかな深い湖底を思わせる瞳をしている。わずかに緩んだ口元には、苦笑とおぼしきものが浮かんでいた。
「少し……静かにした方がいいな」
「だね……じゃなくて! こないだあんたが変なこと言うから、あのあと俺、最悪だったんだかんね!」
「……俺の占いは当たる」
「当てるなよ、いいこと当ててよ!」
 彼は少しだけ痛みをこらえるように笑って、水槽に視線を戻した。つられて目を向けると、魚の群に混じって、悠々とひれをはためかせるエイが、のんびりと通り過ぎていくところだった。
 特徴的な尾を振り、遠ざかる姿を見つめる青年の目は、鈍感とよく言われる城戸から見ても、切ない光を宿していた。
「……エイ好きなの?」
 振り返った彼は、わずかに目を丸くしていた。
 何とも間抜けな質問だと自分でも思ったが、当てはまる言葉がそれしか見つからなかったのだ。
 ジャーナリストとしてはあるまじきことかも知れないが、城戸の語彙はさほど多くない。
 頭を抱えたくなったが、意地でも目はそらさなかった。
 彼はふっと目をそらす。慈愛とも見える穏やかなまなざしが、水槽を時おり過ぎるエイを見送った。
「……パートナー、だった」
「は? エイが? なに、飼育員でもやってたの?」
「俺が? 飼育員?」
「パートナーっていったら、そうじゃないの? 芸でもしてた?」
 彼は何とも言えない表情で黙りこんだ。悩んでいるらしく、視線がエイと城戸の間を行き来する。
 めずらしく感情を露わにした表情は、若い。年齢を訊いたことはなかったが、おそらく同じくらいだろう。
 ストイックな面差しと意志的な目と、頑固なまでに曲げようとしない信条ばかりが印象に残っているが、本質が優しいことは知っている。そうでなければ――。
 そこまで考えて、城戸は愕然とした。
(俺、こいつを……知ってる?)
 続きを思い出そうとしたが、何も出てこない。そればかりか、次々とこぼれ落ちそうになる。何も取り落としたくなくて、とっさにすがるものを探した。
 目の前の、青年の肩を乱暴につかむ。彼はわずかに揺らいだが、手を振り払うことはしなかった。
 静謐の瞳が見つめ返してくる。その目を覗きこみ、城戸はひとことずつ、区切るように言った。
「手塚。手塚……海之……?」
 彼は静かに笑う。驚いた様子もない。
 どこか悲しげに見えた。笑顔が、わずかににじむ。
「思い出さなくていい。その方がいい」
「手塚……手塚は確か、何かを止めるって……止めたいから……」
 たたかいをとめる、そのためにたたかう。
 戦い? 何の? 誰の?
 止めようとして――。
「止めようと、して……」
「お前、今日は良い日になるぞ」
「へ?」
 思わず顔を上げる。目があった瞬間、何を悩んでいたのか、すっかり忘れてしまった。いや、忘れたという感覚さえない。この水族館で彼と出会ってから話したほとんどのことが、流れ落ちて消えていく。
 覚えていたのは、名前と――。
「じゃ、今日、俺はラッキーデイなんだな! 占い、よく当たるもんな!」
 今度取材させてほしい、そう約束を取りつけて、城戸は意気揚々と水族館の奥へと歩いていった。

 城戸を見送ることなく、手塚は水槽に視線を戻した。
 なぜ、彼らは忘れてしまうのだろう。
 城戸と初めて会った――この言い方は正しくないが――その日のうちに、手塚はすべてを思い出した。だが、城戸はもちろん、秋山も、優衣も、北岡も、こっそり様子を見に行った芝浦や浅倉も、誰もあの戦いを覚えていないようだった。
 関わりがあったことさえ。
 いや、城戸は少しだけ思い出した。秋山も、優衣も。だが、それだけだった。きれいにそぎ落とされた「なかった時間」の記憶は、欠片とさえ言えないわずかな残滓を手のひらに乗せて、消えていった。
 浅倉には見つかって殴りかかられたが、手塚が何者かなど気にした様子もなかった。いらいらしていたのかも知れない。
 だから、わずかに思い出してくれた3人には、何か揺り動かされるものがあったのだろう。
 殺し合った記憶など、ない方がいい。
 戦いの結果を手塚は知らなかったし、誰も知らない以上推測するしかなかったが――おそらく、誰も残らなかったのではないか。
 この記憶が手塚から飛び去るその日まで、ひとりで抱えることになるのだろう。
(構わない)
 押しつけられた殺し合いも、酔わされた戦闘もなく、皆が生きているのなら。
 水槽に背を向け、歩き出す。行く先に、なぜか城戸が立っていた。にやにやしながら手を振っている。
(ひとりではない、か)
 たとえ覚えていなくても、刻まれた記憶がどこかには眠っている。

*  *  *

 ブログに書いていた「エビちゃん回想」の顛末(?)。龍騎では手塚至上主義なので、かーなーり夢見すぎでごめんなさい(´・ω・)
 龍騎本編を見ているとき、暴力気味父(秋山)+なだめ役冷静な母(手塚)+やんちゃな息子(城戸)+しっかりもの娘(優衣ちゃん)にしか見えなかったのはなんででしょう。
 城戸の口調がいまいち不明。

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後藤 秋楽
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1982/10/20
職業:
事務
趣味:
読書、ふらり旅、ネトゲ
自己紹介:
 特撮大好き。特にライダー。
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