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燈火小島の「特撮2次創作」の小説群。原作・制作者様とは無関係。勝手な空想の産物です。
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 お題配布サイト「追憶の苑」さんから、お題を借りてきました。特撮系とオリジナルでこなしていこうと思います。燈火島時代にアップしていたものも、いくつかサルベージ予定。

34:忘れてはならないもの
 (仮面ライダー剣/本編終了後)
始さんと虎太郎のお話。
「賭けかもしれない」前提。

 いつかこんな日が来ると思っていた。そう遠くないうちに。
 相川の外見は変わらない。何年経っても変化が訪れない。時間から取り残される存在。
 天音はだいぶ変わった。中学校も卒業して、だいぶ背も伸び、少しずつ大人びて、きれいになった。
 天音に言われた。
『始さん、いつも若くてかっこいいね』
 ありがとう、と微笑んで答えたが、胸の奥に衝撃が走った。
 一所にとどまっていてもぎりぎり怪しまれない時間は、とうに過ぎた。限界だ。
 天音を悲しませたくない。ずっとそばにいたい。ハカランダで、この先の時間を過ごしたい――そう思えば思うほど、らしくもない焦りが募る。

 テーブルに頬杖をついた虎太郎が、ため息まじりに言った。
「君さあ、そろそろやばいんじゃない?」
「……わかっている」
 素っ気なく答える。
 遥香と天音は買い物に出かけていて、客もいない。店には相川と虎太郎だけがいた。
 当初こそあまり関わってこようとしなかった虎太郎だが、さすがに5年も経つと肝が据わったのだろう。今では平気で文句を付けてくるようになった。力あるんだから、と、ときどき雑用まで押しつけられる。
 いいのか悪いのか、よくわからなかった。
 橘に相談したら――最近、橘はあちらこちらで相談事を持ちかけられて、引っ張りだこだ――友だちになれて良かったな、と満面の笑みを向けられてしまった。
 この関係は、果たして友だちといえるのか。
「天音ももう高校生だし、気づいてるよ、たぶん。君がちょっと変わってるってこと」
「人間じゃないんだ。ちょっとどころじゃないだろう」
 虎太郎が盛大に顔をしかめる。牛乳をちびちびと飲みながら、これ見よがしに顔を背け、つぶやく。
「めずらしく気を使ってみたらこれだよ」
「……気を使ったのか」
「いきなりずばっと言ったりしないよ、ふつー」
「そうか」
「とにかく! 何かめどは立ってるの? その体年取らせるとか」
「できたら苦労しない。アンデッドは不死の存在だ。年もとらない。天音ちゃんが車に轢かれそうになったら、盾になれる」
「だから困ってんでしょ! 車の方が壊れるとか、冗談じゃないよ! なんで胸張って言うかなあ……こっそり言いなよ、こっそり」
「お前の盾にはならない」
「あーはいはいはいはい、けっこうでございますよーだ!」
 虎太郎は勢いよく相川に背を向けた。牛乳をぐいと飲み干す。
 なんで虎太郎が怒ってしまったのか、相川にはよくわからなかった。こっそり言えと言うから、こっそり言ったのに。
 虎太郎の背中はご機嫌ナナメだ。
(ハカランダを去ることになったら)
 考えたくもないのに、考えてしまう。
 もしそんなことになったら、どこへ行けばいいのだろう。うっかり世界放浪の旅に出て、剣崎に出会ってしまったりしたら元も子もない。日本を出ないのがいちばんだろうとは思うのだが。
 天音のそばにいたい。でも、どうしても一緒にいられなくなったら――広瀬栞のように、彼の農場に居候することになるのだろうか。
 内心でうーんと首をひねる。
 さすがに近過ぎる気がする。あっという間に天音に見つかってしまうだろう。第一、虎太郎がそれを許すとも思えない。
 ならば、橘の家か。家具が全くなくて驚いたと、誰かから聞いたことがあったが。ちょっと住みにくそうだ。
 あるいは新生BOARDか。さすがに入れてもらえなさそうな気がする。
 横目で相川をうかがっていた虎太郎は、噴きだしそうになって、慌てて空気を飲みこむ。うっかり笑ったりしたら、ものすごく冷たい視線をもらいそうだ。
(もしかしたら……)
 相川は、そんじょそこいらにいる人間よりも、人間らしいかも知れない。天音が愛して、剣崎に機会をもらって、橘と交流し、睦月とぎこちなく会話を交わすようになり――角が取れて、ずいぶんと丸くなってきた。
 少なくとも、虎太郎がそばにいるのに、真剣に悩みつつ百面相しはじめる日が来るとは思わなかった。
「あのさ、逃げようとか思ってないよね」
「思って……ない」
「その間は何よ」
「橘が」
「……うん? 橘さんが、なに?」
「俺を人間にすると言った。俺は橘の言葉を信じたい。だから……逃げる気はない。少し隠れるくらいは考えるが」
 結局逃げることも選択肢だったんじゃん、とは、虎太郎は突っこまなかった。「一時的に姿を隠す」と考えられるだけ、まだ余裕があるのだ、と考えることにする。
 ぎらぎらとした刃のような気配はすっかり影をひそめ、笑顔も増えた。
 このまま何事もなければ――研究が成功すれば、相川はきっと、誰よりも立派な人間になれる。
「剣崎君が頑張ってくれたから、今ここにいられるんだからね。それを忘れないでよ」
「……ああ」
「ほんとにわかってる? 幸せになんなきゃダメだ、って言ってるんだよ?」
 虎太郎の気づかいが嬉しかった。
 これが、人間になる、ということか。胸の中が暖かい。世界はひとつの関わりから作られるのではなく、複数の輪がつながってできるもの。
 人間になりたいのなら、人間を知れ――少し前に、橘はそう言った。ならばと、手近なところで橘をストーキングしてみたが、彼の生活は、どう見ても今の相川よりも人間らしくかった。しかも、見つかって苦笑された。
 天音と剣崎以外の人間に初めて抱いたやわらかな感情に、らしくもなくうろたえる。
 わずかに唇を曲げ、内心を悟らせずに言った。
「……お前もな」
 虎太郎は何とも言えない顔でそっぽを向く。
「……君のあとでいいよ。僕は別に急いでないから」
 そうか、と相川は答える。
 桜前線が順調に北上する、平和な昼下がりだった。

*  *  *

 DCDのブレイドの世界と、MISSING ACEを見ていて書きたくなりました。
 仲のいいふたり。

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後藤 秋楽
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女性
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1982/10/20
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事務
趣味:
読書、ふらり旅、ネトゲ
自己紹介:
 特撮大好き。特にライダー。
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