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燈火小島の「特撮2次創作」の小説群。原作・制作者様とは無関係。勝手な空想の産物です。
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 お題配布サイト「追憶の苑」さんから、お題を借りてきました。特撮系とオリジナルでこなしていこうと思います。燈火島時代にアップしていたものも、いくつかサルベージ予定。

15:求めている答え
 (シンケン/第9話終了後)
 池波の命を勝手に賭けたことでちょっと落ち込み気味の殿と、相談に乗る黒子の吉野のお話。

 その報を聞いたとき、心臓に細い氷の針を、何本も突き立てられたような心地がした。
 アヤカシの中に、心を書き換え、操ってしまう者がいると教えられたことがある。だが、そのアヤカシが出現する確率は、さして高いとは思わなかった。
 だから、池波流ノ介が乗っ取られたと聞いたとき、黒子たちは――特に、侍の教育を受けてきた、吉野、朝影、鶸、鏑の4人は愕然とした。
 谷千明をかばったためと聞かされなければ、4人そろって覆面を取り、殿の元へ直談判しに行ったかも知れない。
 黒子である吉野たちにできるのは、ただ待つこと。そして、祈ること、信じること。
 何もできないに等しい。
 ショドウフォンがあれば、もう少し何かできるかも知れないが――今は共神すらいない。
 だから、無事に流ノ介が戻ったときは、安堵した。侍たちも彦馬も安心しただろう。喜んだだろう。
 だが、もっともその事実を喜んだのが黒子のひとりであることなど、きっと、彼らは知らない。

 丈瑠はほんの微かな気配に気づき、顔を上げた。
「誰だ」
 深夜の志葉家。すでに家臣たちは寝静まったようで、広い屋敷はため息ひとつ落とすことさえ憚られるほどの静寂に満ちていた。
 まんじりともせずに広げていた本を閉じ、丈瑠は障子へ向き直る。
 音もなく開いた障子から顔をのぞかせたのは、黒子のひとりだった。
 ぱたり、と閉ざされた障子の前で、黒子はきれいに頭を下げた。膝にわずかに指を滑らせ、畳に両手をつく。
 丈瑠はわずかに目を見開いた。
「このたびは」
 玲瓏たる女声が告げる。
「池波流ノ介を無事取り戻して下さって、誠にありがとうございました」
「……お前、あの時の黒子か」
 黒子がすいと覆面を取る。
 現れたのは、あの黒子だった。庭で丈瑠が竹刀を打ちつけた、あの女性――。
「名は?」
「……訊いてはいけませんわ、殿。あたしはただの黒子だもの」
「掟、か?」
「一応そうなってますわね」
「黒子としての名ならあるだろう」
「吉野、ともうします」
 彼女は迷うことなく答えた。
 あの時は目元が隠されていたが、改めて見てみると、ろうたけて美しい面差しをしていた。実力に支えられた自信に輝く眼光は、やはり、強い。
 吉野はわずかに姿勢を崩す。名乗った以上――いや、覆面を外した以上、垣根もないものとして接する、と宣言するかのように。
「で、なんでお前が礼を言う?」
「モヂカラを使えるのが、あなた方5人だけではないことはご存じ?」
「……一応な」
「『浄』のモヂカラで、彼を救おうとしたものがいました」
「…………」
「もちろん止めましたわ。でも、もしもの時は絶対に打つ、と言い張っていて、こちらとしても、認めざるを得なくて。ですから、お礼を申し上げるのです」
 礼を言われるようなことではなかった。流ノ介の命を勝手に賭けに使ったのは事実だからだ。何より、臣下――いや、仲間なのだから、元に戻すために全力を尽くすのは当然のこと。
 何とも答えられずに目をそらす。
 当然のことだ、と言い切るには丈瑠の中のしこりは大きすぎる。
 そして、内面を正直に口にできるほど、彼女と親しいわけではない。弱音を吐ける間柄でもない。そもそも、簡単に弱音を吐けるような教育などされていない。
 口をへの字にして黙りこむ。
 それだけで、丈瑠が考えていることを、吉野はほぼ正確に悟った。
 だてに同い年してるわけじゃない。
「本当は怖かったのでしょう」
「なんだと……」
「自らの手で仲間を殺してしまうかも知れない。でも、自分にしかできない。弱みを見せるわけにもいかない」
 丈瑠は黙りこむ。不機嫌な沈黙だったが、吉野は心の中でこっそり笑った。
 殿様の仮面がはがれまくっている。
「誰も死なせたくなかった」
 ふたりの声が、重なる。
 丈瑠は少し気まずそうに目をそらし、吉野は噴きだしそうになるのを必死に――しかし外から見れば涼しげに――こらえた。
 丈瑠の表情には、後悔がある。心の内を簡単に明かしてしまった失敗を、彼は悔いている。
 そんな表情を見られるのも、吉野が彼の守るべき人間ではないではないからだ。守られるべき側にいない。そのことを、少し寂しく思う。
 心根にある優しい感情をかいま見せるのは、その強さを見せる必要がない人間にのみだから。彦馬には甘えることは多少なりともできても、他の人間にすべてを許すことなどできない。
 殿様というのも大変だ。あまりに多くを背負わされている。
 ひとりで納得していると、丈瑠の不機嫌そうな声にぶつかる。
「お前、なんなんだ」
「黒子でございますよ」
「……納得できるか。お前、侍だろ」
「黒子ですわ、ただの」
 内心ひやりとしながら、にっこり答える。
 耐性がないのかうんざりしたのか、丈瑠はわずかに視線をそらし、小さくため息をつく。
 いつの間にか獅子の形を取っていた獅子折神が、不安そうに丈瑠の膝のまわりを回っていた。吉野の視線に気づくと、不満なのか威嚇なのか、前肢を勢いよく振り上げ、うなり声を上げる。
 丈瑠が指先で獅子折神を叱るが、彼――だと勝手に思っている――は抗議するように膝の上を跳ね回る。
「わたくしたちも、あなたへの考えを少し変えました」
「…………」
「内心を見せず、内側に誰も入れようとしないのは、あまりにもったいない」
「……お前」
「切り札なのでしょう?」
「……お前、本当にただの黒子か?」
「と、あたしは思ってますけど」
 丈瑠は黙りこむ。
 めずらしいことに、吉野に対して強いいらだちを感じていた。もっと大きいのは、焦りだったかも知れない。「切り札」と「ただの黒子」のどちらに対して答えたのかわからなかった。
 つかみ所がないわけではない。むしろ、自分の立場を明確に明かしている。だというのに、心中をはかりきれなかった。感情の機微に聡い方ではない自覚はあったが、ここまでわからないのも初めてだった。
 どうしようもなくて、むっつりと黙りこむ。
(あー、困ってるわ殿)
 うんざりとした丈瑠の顔に、吉野は内心快哉を上げた。もちろん、外には微塵も出さない。
 ずっと一緒に育てられてきた――ある意味一方的なものだ――が彼が混乱するところを見る機会なんて、そうそうなかった。日付で言えば丈瑠の方が年上だったが、何だか、弟に接しているような気分になる。
「お仲間にそんな態度じゃいけませんよ。殿と臣下でいるのが耐えがたいのなら、笑顔のひとつでも向けられればよいのに」
「…………」
 眉間にびしっと刻まれたしわに噴きだしそうになる。筆でもはさめそうだ。
「……笑顔なんて」
「獅子折神を甘やかすように、彼らも甘やかしてみればいいんです」
「馬鹿を言うな」
「強いだけが殿様じゃありませんよ」
 近づいてくる気配がある。それは、あまりにも秘やかだった。
 丈瑠もわずかに表情を変え、近づいてくる存在を感じ取るように障子へ視線を向ける。
 侍たちのものではない。彼らは、どれほど気配をひそめようとも、不可視の光を放っている。彦馬があそこまで気配を隠すこともない。
 十中八九、黒子のものだろう。
 吉野は深く頭を下げた。
「何があっても、我らはあなたの味方です。それをお忘れなきよう。あたしは、あなたを死なせはしない」
 丈瑠がわずかに動揺するが、気づかないふりをする。
「……結局、何をしに来たんだ、お前は」
「ご機嫌うかがい、といったところですわね」
 頭巾をかぶり、吉野は笑う。
 丈瑠が呼び止めようとした瞬間、ぼんやりと空気が揺らぎ、淡い虹が立ち上った。弧を描く七色をくぐり抜けた瞬間、吉野の姿は消える。
 障子もひらいていないというのに。
(モヂカラか……?)
 それにしては、発動する瞬間の奔流を感じなかったが。
 まるで幻のようだった。
 障子の向こうで近づいてきた気配が立ち止まる。
「入れ」
 声をかけると、するすると音もなく開かれた。姿を現したのは、小柄な黒子だった。小さなお盆を手に部屋に入る。
「千客万来だな」
 ぽつんとつぶやくと、黒子はわずかにうつむいた。しまった、と後悔しかけるが、わずかに揺れた肩に、笑いをこらえているのだと悟る。
 何となく面白くない。
 最近、一部の黒子――とはいっても、見分けがつくわけではなかったが――の態度が、前とは変わってきている気がする。
 丈瑠の斜め前、下座に座った黒子が、すいとお盆を差し出した。立ち上るのは、香りの良い緑茶の香り。まさか、こんな夜中に緑茶を持ってきたのか、と少しひるんだが、香りの中に薬草の匂いが混じっていることに気づいた。
 どうやら、眠れないでいるのを気遣ってくれたらしい。
 抹茶椀を手に取り、口を付ける。わずかな苦みとまろやかな甘みが口内に広がり、ささくれた神経を穏やかになだめていく。
 あっという間に飲み干した。
「もう寝る」
 宣言し、布団に向かう。
「ありがとうございました」
 その声に耳を疑う。
 振り返ると、黒子は深々と頭を下げていた。吉野とは違って頭巾を外してはいないが、黒子の決まりを破っていた。主の前で声を発することは、禁じられている。
 反応に困って見つめていると、黒子はぺこんともう1度頭を下げ、お盆を手に部屋を出て行った。
 あとには、布団を踏んづけ、ぽかんと障子を振り返っている丈瑠だけが残される。
 もしや。
 今し方立ち去ったあの黒子が、「浄」のモヂカラを使おうとしたという黒子だろうか。
 丈瑠は深いため息をつき、布団にもぐりこむ。せっかく薬湯で落ち着いたというのに、考えるべきことが山のように降りかかってきた。夜明けも近いというのに。
 明日、寝不足で一本取られるなどという情けない事態にならないように、何が何でも眠らなければ。
 眠りに落ちるその一瞬に現れたのは、緩くとぐろを巻いた長大な竜と、その腹に頬を寄せて眠るあどけない狐の、穏やかな寝姿だった。

 我が身に重すぎる責は、いつか誰かを傷つけはしないだろうか。
 4人の侍を、無事、生き残らせることはできるだろうか。
 勝利を収めることができるだろうか。
 答えが出るのはいつの日だろう。考えればきりのない、深淵のような疑問を抑え、朝日の注ぐ部屋を出た。
 仲間たちの挨拶が耳に届く。

*  *  *

 殿はいろんなものを探してるんです、きっと。
 殿は21~23歳くらいのイメージでいるんですが、どうなんでしょうかねー。

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1982/10/20
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自己紹介:
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