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燈火小島の「特撮2次創作」の小説群。原作・制作者様とは無関係。勝手な空想の産物です。
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 お題配布サイト「追憶の苑」さんから、お題を借りてきました。特撮系とオリジナルでこなしていこうと思います。燈火島時代にアップしていたものも、いくつかサルベージ予定。

19:薔薇色の幻
 (電王/本編終了後~超・電王トリロジー以前/ウラタロス、リュウタロス) 
ウラタロスを描くリュウタロスと、物思いにふけるウラタロス。

 青いクレヨンを振り回していたリュウタロスが、突然動きを止めた。真っ赤な目に戸惑うような揺らめきが灯る。
「亀ちゃん?」
「なあに、リュウタ。僕の顔、それで終わり?」
 ウラタロスは塗りかけの画用紙を指先でとんとんと叩く。半分以上が塗り残しのままだ。リュウタロスの願いで絵のモデル(?)をしているのだが、子供特有の飽きっぽさか、あっちへこっちへと寄り道ばかりを繰り返して、なかなか進んでいなかった。
 からかうのにも飽きたらしいモモタロスはお風呂に、キンタロスは居心地のいい寝場所を求めてイマジン部屋――戦闘に特化した肉体には小さすぎる個室――へと戻ってしまった。ナオミはテディを借り受けて買い出しに行き不在だし、たまにはひとりも悪くないと笑った幸太郎はターミナルの散策に出かけていった。オーナーはいつの間にか姿を消していたが、きっと、駅長と炒飯対決でもしに行ったのだろう。
 良太郎とコハナはミルクディッパーへと出かけていった。ゼロライナーにも寄りたいと言っていたから、しばらく帰らないだろう。
 ターミナルに停車中のデンライナーに落ちる光は画一的で、何のおもしろみもない。
 リュウタロスは混乱したように首を傾げた。虹色に汚れた手がクレヨンを画用紙に置く。その手がウラタロスに伸ばされる。思わず身を退くが、リュウタロスはテーブルを乗り越え、行儀悪く膝をついて身を乗り出してきた。
 ため息をひとつ。
「リュウタ、テーブルの上に乗っちゃダメだって何度……」
 迷う仕草を見せたが、リュウタロスはウラタロスの鼻先で指をさまよわせた。
「亀ちゃん、なんで泣いてるの?」
「はぁ?」
 素っ頓狂な声を上げたことに気づき、口を押さえる。他に誰もいなくてよかった。
 リュウタロスと一緒だと、どうもペースを乱されることが多い。苦笑をこらえていると、リュウタロスがもう一度手を伸ばしてきた。意外にも優しい手つきでウラタロスの頬に触れ、そっと離れる。
 白い手袋の上に、水滴が光っていた。
「え……なにそれ」
 ウラタロスは信じられない思いで自らの頬に触れた。固い爪の先にあたたかな感触が灯る。
 離した指先は、確かにぬれていた。
 胸の奥で、壊れた砂時計の砂がひとつぶ落ちた。空を溶かす海のようにあざやかな、きれいな青い砂。
「なんだろうねぇ、これ」
「なにって……涙じゃないの?」
「涙、に見えるねえ。僕、嘘泣きしかしたことないんだけどな。うーん、リュウタの絵に感動したかな?」
「ほんとーっ?」
 ずいっと身を乗り出してくるリュウタロス。本当だよ、と適当にあしらって向かいの席に戻し、絵を続けるよううながす。やる気になったらしいリュウタロスは、先ほどよりもずっと丁寧な手つきで、画用紙に描いたウラタロスの顔を塗りつぶしはじめた。
 鼻歌まじりの作業を見守りながら、ウラタロスはもう一度頬に触れた。
 涙は、確かにそこにある。
 心当たりのない涙が、あとからあとからこぼれ落ちた。欠片ひとつとどめぬ遙か未来という過去の記憶が、涙としてあふれ出しているのか。
(何一つ覚えてないのに、ときどき追いかけてくる)
 忘れていた古傷に不意に触れられたような、胸の底が憂いに揺れるような感覚。
 いつか、砂時計の砂がすべて落ちきって、砂の檻に閉ざされた小さな宝石が露わになる日は来るのだろうか。
 この時間に来て、良太郎や他のイマジンたちと出会って、守るために戦う怒濤の日々を体験した。その記憶は、すべて生きている。ただひとつ、良太郎と彼の時間を守りたくて、それだけを寄る辺にして、自らの消滅も呑んで戦い抜いた。
 本物かどうかもわからない、未来の記憶の宝石はいらない。守りたかったのは「現在」で、偽りの薔薇色に隠された甘い未来など、望んでいないのだから。
「リュウタ、僕の目は赤じゃないよ」
 不満そうに紫色の子供が顔を上げた。
「いいじゃない、赤だって。ぼくとおそろい! いえーい!」
「はいはい」
 ピースピース、と突き出された手に負けて、おざなりなピースを返してやる。それだけで、リュウタロスは長く垂らした髪で嬉しそうにリズムを刻んだ。
「亀ちゃん、かっこよく描いてあげるね!」
「僕をこれ以上かっこよく? 難しいと思うけど。期待してるよ」
「うん、いっぱい期待していいよ! 答えは聞いてないからね」
 リュウタロスの声ばかりが響くこの食堂車にも、あと数時間とたたずに他の誰かの声が響く。それはナオミかも知れないし、幸太郎、あるいは、良太郎かも知れない。
 にぎやかなイマジンたちがいて、素敵な笑顔でコーヒーをいれてくれるナオミがいて、少し怪しいけれども皆を見守っていてくれるオーナーがいて。良太郎の孫だけあって不屈の魂を持つ幸太郎がいて、小さくなってしまってもその強さは何一つとして損なわれていないハナがいて、小さくなったとしても何一つ変わらず揺らがぬ優しさと強さを兼ね備えた良太郎がいて。
 こんなデンライナーが、自分は好きなのかも知れない――どんな嘘でもごまかしきれないくらいには。
 時間からこぼれ落ちてしまった幾多もの存在の重さを涙の中に溶かしこみ、ウラタロスはそっとため息をついた。
 ゆるやかな時間が、小刻みに過ぎていく。

*  *  *

 以前、電王の長編小説用に書いていた作品をリメイク。
 このふたりの組み合わせは、いかにも兄弟といった雰囲気で、かーなーり好き。
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HN:
後藤 秋楽
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女性
誕生日:
1982/10/20
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事務
趣味:
読書、ふらり旅、ネトゲ
自己紹介:
 特撮大好き。特にライダー。
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