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燈火小島の「特撮2次創作」の小説群。原作・制作者様とは無関係。勝手な空想の産物です。
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 お題配布サイト「追憶の苑」さんから、お題を借りてきました。特撮系とオリジナルでこなしていこうと思います。燈火島時代にアップしていたものも、いくつかサルベージ予定。

49:あなたがくれたもの
 (剣/本編終了後)
 剣崎と志村が出会うお話。剣崎の失踪から5年後。

*前提*
「賭けかもしれない」 アンデッドを人間にする
12:綺麗に繕った感情 新生BOARDでの志村と睦月
34:忘れてはならないもの 人間らしくなっていく始さん

 乾いた風がうなりを上げ、遙か後方へ駆け去っていく。叩きつけるような熱が頑丈な体表面を滑り、流れ落ちていく。
 剣崎が目指す先には、乾ききって縮れた灌木の、ささやかな茂みがあった。
 そのそばには、人間とも獣ともつかない生き物の姿がある。それは、ケルベロスⅡの姿に、どこか似ているようにも思える。無様な牙と歪んだ爪を持つ2足歩行の巨体は、今、怯えて声もない子供たちへと襲いかかろうとしていた。
「やめろ!」
 一言叫び、ジョーカーの姿の剣崎は、振り下ろされるかぎ爪の前に飛び出した。背で衝撃を受け止める。わずかに表皮を砕かれたが、それだけだ。左腕を払い、獣を薙ぎはらう。
 吹き飛んだ巨体には目もくれず、子供3人を抱きかかえて、乾いた大地を蹴る。みるみるうちに黒い色素が褪せ、人間としての剣崎が現れた。
 胸に抱きこんだ子供たちは、哀れなほど震えていた。声もなく剣崎にしがみついている。
 風を切り、走る。緑の極端に少ない大地を蹴り、可能な限り早く。ブルースペイダーは少し離れたところに隠してあるが、子供たちを抱えていては乗れない。
 ちらりと振り返ると、サメのように虚ろな丸い瞳を青く輝かせ、怒り狂った獣が追いかけてくる。
 これ以上速度は上げられない。剣崎にはなんともなくても、子供たちには危険な負荷となる。
 このまま行けば、小さな村がある。子供たちを帰してから迎え撃つか、逃げるよう言い置いてこの場にとどまるべきか――剣崎は前者を選んだ。
 あいつらが1体だけとは限らない。
 近頃、あの妙な生き物が増えてきた。いや、もしかしたら同じ1体が、何度となく繰り返し出現しているのかも知れないが。剣崎が、この砂の縁に築かれた小さな小さな村へ来ることになったのも、それが原因だった。
 追ってきたのだ。人を――特に子供を好んで捕食する、アンデッドとも何者ともつかない化物を。
 倒しても倒しても立ち上がる、アンデッドにも似た生き物は、ジョーカーの力をもってしても活動を止められなかった。
「あいつ、なんなんだよ……」
「かずまぁ……」
 胸の中の子供が細い声を上げる。涙まじりの声に、剣崎は笑って見せた。
「大丈夫、俺が守る」
「でも……」
「大丈夫。約束しただろ?」
 子供たちのすすり泣く声が、胸郭の奥を震わせる。
 子供は何をおいても守られてしかるべき存在だ。少なくとも、剣崎はそう考えている。その子供をこんなにも怯えさせて、何度となく襲いかかって――殺そうとするなど、到底許せるものではない。
 ぎりぎりと歯をきしらせる。ともすればあふれようとするジョーカーの力を抑えながら、子供たちを護ることだけを考える。
 あと少し。もう少し。
 それなのに、獣のかぎ爪は、すぐ背後に迫っている。砂を蹴立てる音、激しい呼吸、生臭い呼気、身の毛もよだつ獣臭。そのすべてが、子供たちをおびやかす。
 3人を抱えていては、剣崎は戦えない。だが、下ろせば標的にされる。
(どうする、どうする……)
 募る焦りを抱えたまま、過ぎる砂煙の向こうに村の影を見つける。
 こんなに近くまであいつを近づけてしまうなんて。誰かが様子を見に来なければいい。どうか、どうか家の中にいてほしい。
 日が昇りはじめた大地は、これから一気に気温が上がる。
 だから、今なら。
 その願いはあっさり覆された。
 村の外れの慎ましやかな木立のそばに、男の姿があった。特徴を素早く観察して、初めて見る男だと確信する。
 黒髪にベージュの帽子を載せ、薄く色の入ったサングラスを付けている。選択としてはわりあい正しいが、服装はあまりにもふさわしくなかった。この暑い中、ダークブルーのネクタイを締めたワイシャツにスラックスという、正気を疑うような格好をしている。
 カジュアルに過ぎる帽子を載せていることはともかく、ネクタイを締めるような人間が、なぜこんなところにいるのだろう。この周囲には、スーツを着こなす人間が快適に過ごせるような場所などない。ひとつとして。
 地元民にしては、全体的に色素が薄い。皮膚の色を見て、剣崎はぎょっとした。あまりにも剣崎と近い色をしている。ということは――東洋人か。
(まさか……)
 橘だろうか。
 違うことはすぐに知れた。橘よりも背が低く、体格も違っている。第一、なじんだあの気配がない。
 失望感が胸の内を過ぎる。そのことに、剣崎は驚いた。通り過ぎた後に生まれたのは、微かないらだちだった。
 誰へ向けたものなのか、自分でもよくわからない。勘違いした自身か、立ちすくんでいる青年か、そうと期待させた橘か――。
 いずれにせよ、このまま近づけば、青年が危険にさらされる。
 声を上げようとして、違和感に気づいた。
 村の小さな通りに、人がいない。山羊も、鶏さえいない。
「なんだ……?」
 思わず落とした声に、子供たちが身じろぎした。
 青年はまっすぐに見据えていた。剣崎を、剣崎が抱えた子供たちを、そして、迫る異形の獣を。それなのに、動揺することも怯える様子もなく、迎え撃つかのように顔を上げて立っている。
 青年の手元で、何かが陽光を跳ね返した。まばゆく輝く銀色は、小さな箱形をしている。指先には、何か薄い――カードのようなものがはさまれている。
 なじみのある形、大きさ。
 クローズアップされるように、視線が引き寄せられる。
「ブレイバックル!?」
 思わず叫ぶ。
 青年が腕を上げた。ラウズリーダーに滑りこむ、輝かしきスペードのエース。当てられたバックルからシャッフルラップが伸び、青年の腹部にブレイバックルが装着された。
 青年は構えた。ゆっくりと、挑むように。
「避けて下さいよ……変身!」
 ハンドルが引かれ、オリハルコンエレメントが射出される。目の前に展開した青い輝きを、剣崎は転がるようにして何とかかわした。腕の中の子供たちも無事だ。
 だが。
 獣はそのまま突っこみ、後方へ吹っ飛んだ。耳障りな悲鳴が鼓膜を打つ。
 青年が地を蹴る。舞い上がる砂埃を振り払うように、まっすぐオリハルコンエレメントへ飛びこみ――現れたのは、アイアンブルーに染め上げられた、スペードのライダー・剣〔ブレイド〕。
 見知らぬ青年が変身したブレイドは、すらりとブレイラウザーを引き抜き、飛び起きた獣に切りかかった。異形は悲鳴を上げ、大きくよろめく。
 その腕に、深い傷が走っていた。ブレイラウザーに付着したのは、白みを帯びた青緑の液体だった。
「効いてる……!」
 剣崎があれほど打ちのめしても、血液ひとつ流さなかったというのに。ブレイラウザーは、いとも簡単に頑丈な獣の皮膚を切り裂いた。
 それにしても、あの色は何だろう。アンデッドのものとよく似ているが。
 ブレイドは立て続けにラウザーを振るい、獣を攻撃する。隙のない身のこなしに、誰かの姿が重なった。鋭く、疾く、重い。
 子供たちを背にかばい、剣崎が見つめる先で、ブレイドは化物を追いつめていく。
 獣は吼えた。手負いの猛獣が放つ、怒りと絶望の咆吼だった。魂を揺るがし、感情を引きちぎる。反射的に、剣崎は子供たちをかばっていた。ジョーカーの姿となり、胸に抱えこむ。
 衝撃に息がつまる。子供たちをしっかり抱えたまま、喉の奥で悲鳴をかみつぶした。
 人間へと戻りながら振り返った剣崎が見たのは、足を切り落とされて血に伏した怪物と、プライムベスタを取り出すブレイドの姿だった。
『スラッシュ』
 スラッシュリーダーがプライムベスタを読み上げる。
『サンダー』
 まばゆい雷光が放たれ、刃に鋭い輝きを灯した。
 獣が立ち上がり、ブレイドに襲いかかる。
『ライトニングスラッシュ』
 ブレイラウザーを構え、ブレイドが鋭く息を放つ。わずかに腰を落とし――駆けだした。
 雷光をまとった刃が裂帛の気合いとともに振り抜かれ、獣の腹を深く切り裂いた。すれ違いざまにもう一太刀浴びせ、完全に戦闘力を奪う。
 ばくんっと鈍い音をたて、よじれた頭蓋骨がふたつに割れた。そこには、未知の言語とおぼしきねじくれたラインがいくつものたくっている。
(アンデッドじゃない……何者なんだ?)
 ブレイドの指先からコモンブランクが放たれる。それは、見慣れない黒色をしていた。
「またカテゴリー『アンノウン』か……」
 ブレイドがつぶやく。ラウザーではなく腰に下げたオープントレイをひらき、そこにワイルドベスタをしまいこんだ。大きなスペードのマークが金色に輝いている。
 よく見れば、剣崎が変身していたブレイドとは、少し姿が違う。ラウザーの形も、バックルの形状も、少しずつ異なっていた。
「お前、何なんだ……?」
 剣崎の問いかけに、ブレイドは振り返った。
 ハンドルが引かれ、オリハルコンエレメントが展開される。光の膜を通り抜けた青年は、人懐こい笑みを浮かべた。
「剣崎一真さん、ですよね」
 彼は日本語で言う。
 子供たちがきょとんと剣崎を見上げた。日本語か、現地の言葉か。しばし迷い、剣崎は日本語に切り替えることにした。
「……そうだけど、あんたは?」
 久しぶりの母国語は、耳によくなじむ。
「僕は志村純一。僕たちのチーフに頼まれて、あなたを迎えに来ました」
「……チーフ?」
「あなたもよくご存じの人ですよ」
「……俺が知ってる人? まさか……」
 志村は微笑んだ。
「橘朔也氏です。彼は今、この国に来てます。もっとも、ここからは何日分かの距離がありますけどね」
「橘さん……? 橘さんが、なんで!?」
「アンデッドを人間にする」
 志村の言葉に、剣崎は息を呑む。
「チーフはずっと、その研究をしていました。5年間ずっと、です。やっと……実りました」
「……橘さんは? どこにいるんだ?」
「けがを負われて入院中です」
「入院!?」
「ああ、ご心配なく。ハイジャック犯を叩きのめしたときに撃たれたくらいで、本人はとても元気です。健康ではないですけどね。むしろ、病室に閉じこめるのに苦労したくらいで」
 とても橘らしいと思った。迎えに来てくれたことも、あと一歩のところで入院してしまったことも――その理由が、人を助けるためだったことも。
 剣崎を探すために来てくれたのだ。何も言わずに立ち去ったのに。
 きっと、剣崎がジョーカーになることなど、望んでいなかったのに。それでも、来てくれたのだ。アンデッドを人間にする――そんな、不可能とも思える研究を成功させて。
「みんな、元気かな……」
 ぽつりと声がもれた。子供たちが剣崎の手を引く。言葉がわからないなりに、何か察するものがあったのだろう。
 彼らは、泣きそうな顔で、笑った。

*  *  *

 ケルベロスシリーズだと、カテゴリーアンノウンと戦うのはちょっと辛い(らしい。なぜか曖昧)です。なので、今回は志村にブレイバックル改良型が渡されました。
 三輪と禍木が橘さんを病室に押しこめてます。
 睦月も来たかったのですが、橘さんに却下されて、仕方なく新生BOARDでお留守番。カテゴリーアンノウンが出現したために、烏丸さんからレンゲルバックル改良型をもらって出撃していきました。
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プロフィール
HN:
後藤 秋楽
年齢:
41
HP:
性別:
女性
誕生日:
1982/10/20
職業:
事務
趣味:
読書、ふらり旅、ネトゲ
自己紹介:
 特撮大好き。特にライダー。
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