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燈火小島の「特撮2次創作」の小説群。原作・制作者様とは無関係。勝手な空想の産物です。
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 お題配布サイト「追憶の苑」さんから、お題を借りてきました。特撮系とオリジナルでこなしていこうと思います。
 燈火島時代にアップしていた作品のサルベージ品です。

33:ただ望むものは、ささやかな
(ボウケン/第13話終了後)
 怪盗セレネーとの一件で、菜月が思うこと。

 セレネーとの一件で、菜月は「かぐや姫」に興味を持った。
 読み終えた菜月は、とてもひどい話だと憤慨していた。
 すべての人を捨てて、空へと登っていってしまうかぐや姫。回りくどい言い方で、たくさんの人にけがをさせたり、恥をかかせたり。育ててくれたおじいさんおばあさんが、とても悲しんでいるのに、月へ帰ってしまったり。
 羽衣を掛けられて、みんなを忘れてしまうのが、一番ひどいと思った。本当に別れが悲しいのなら、月へ帰るのをやめればいいのに。衣を着せかけられても、忘れなければいいのに。
 菜月には分からない。そんなひどいことができるかぐや姫が、まったく分からない。
 菜月は過去を思い出せないから。真墨に拾われる以前のことが、何もわからない。どこかで誰かが探しているかも知れない――。わずかな焦りは、今もある。
 逸ることは、もうないけれど。誰かに惑わされて、またけがをさせてしまうことがないように。
 菜月にとって、ボウケンジャーのみんなは大切な仲間で、真墨は仲間でもあり相棒でもあり家族でもある。
 だから。
「お前、記憶が戻ったら、家族のところ帰れよ」
 真墨のその言葉が、一瞬理解できなかった。
 首を傾げていると、苛ついた様子でソファから身を起こす。
「あのな、お前の家族は、お前を心配してるに決まってる。心配させっぱなしにはできないだろ」
「なつきにとっては、真墨だって家族だよ」
「そうじゃないって……」
 頭を抱え、またソファに突っ伏してしまう。
「家族ってのはな、大切なものなんだ」
 俺が言っても説得力ないけど、と小さくつぶやく。
「とにかく、ちゃんと帰ってやれよ。またここに来てもいいんだ。ボウケンジャーでいてもいいと思う。だけど、ちょっとは帰ってやれよ」
「記憶も大切だし、家族のことも知りたいけど」
 真墨の前に回り込む。しゃがみこんで視線をあわせると、真墨は目を閉じてしまった。ちょっとふてくされているようにも見える。
 菜月は真墨の腕を揺さぶった。
「なつきは、真墨だって大事なんだよ?」
「ばっ……」
 真墨は顔を赤くした。飛び起き、扉へと突進する。叩きつけるようにボタンを押し、エレベーターに飛びこんで。
 真墨は振り返った。顔は笑い出したくなるくらい真っ赤に染まっている。
「記憶が戻ったら帰れよ! 俺のこと、おいて行けよ!」
 そうしないと承知しないからな、と、扉の隙間から転がり落ちた叫び声。
 真墨が去った扉を見つめ、菜月はゆっくり立ち上がった。深く深くため息をつき、腰に手を当てる。
「ばかだなー、真墨は」
 本人が聞いたら憤死しかねない言葉をぽつんとつぶやく。
「なつきが、真墨のことおいてくわけないじゃん」
 本当にばかだなー、と。
 小さくつけ足して、菜月もエレベーターへと向かった。きっと、真墨はジムへと向かっただろう。ものすごい勢いで無駄に鍛えているに違いない。
 面と向かって言ってやらなくては。
 真墨が菜月をおいて行かないのと同じ。菜月が真墨をおいて行くことなんかないよ、と。
 菜月は今だって幸せなのだから。

*  *  *

 燈火島時代の作品に加筆修正しました。
 このふたりの関係はすごく複雑で、でも単純なものだと思います。
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後藤 秋楽
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女性
誕生日:
1982/10/20
職業:
事務
趣味:
読書、ふらり旅、ネトゲ
自己紹介:
 特撮大好き。特にライダー。
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