燈火小島の「特撮2次創作」の小説群。原作・制作者様とは無関係。勝手な空想の産物です。
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お題配布サイト「追憶の苑」さんから、お題を借りてきました。特撮系とオリジナルでこなしていこうと思います。燈火島時代にアップしていたものも、いくつかサルベージ予定。
04:何時か終わりが来る事を知っているのに
(龍騎/物語開始以前/手塚、エビルダイバー)
手塚とエビルダイバーの出会い。
04:何時か終わりが来る事を知っているのに
(龍騎/物語開始以前/手塚、エビルダイバー)
手塚とエビルダイバーの出会い。
ため息をつけば、凍りつくような白い吐息が星ひとつない空へと登っていく。真っ暗なビルに小さな足音が反響し、頭蓋の奥を不快に突き刺した。
手塚はただひとり、ひとけのない通りを歩いている。警察から解放されたのがほんの30分ほど前。ほとんどの街路灯が消されたオフィス街は暗く、冷たく黙りこんでいる。平時ならば、視界を遮る闇にわずかな恐れを抱きもしただろう。
だが、今は何も感じなかった。
胸郭に触れれば、今しも鮮血があふれ出しそうな気がする。友を失った痛み、見ているしかなかった絶望、何より、友の選んだ道に先はないと知りながら――その顛末を見はるかしていながら、何一つ有効な手を打てなかった自身への失望。
どんなに言葉を尽くしても足りない。
運命は変えられるはずなのに、何もできなかった。
(俺の占いは当たる……が。無意味だな)
このまま何も変えられないのなら、この力を憎む日はそう遠くはないだろう。
ポケットの中で手を握りしめる。固く、冷たい感触が素肌の指に触れた。脳裏をかすめるあざやかなクリムゾン。体の中央を貫くわずかな衝撃に、重い足取りが止まる。胸の奥が鈍くうずいたのは、これから始まる共食いの予感か。
猛毒の重金属のようにその存在を声高に主張するのは、決して体温になじまぬカードデッキだった。
友人が唯一遺したもの。
思わず現場から拾い上げ――没収されることもないまま、今、こうして手元にある。
(雄一は、戦いを拒んで喰われた)
カードデッキを取り出す。クリムゾンの色彩の中央で輝くのは、エイにも似た黄金色。夜の暗がりと遠い街路灯の明かりを宿して、濡れたような光を撓める。
ふと、頭蓋の内側で小さな音が弾けた。きぃん、と鼓膜を刺すような鋭い音が響く。目を上げる。壁面いっぱいを覆い尽くすガラスは、鏡のように沈黙していた。
その、時の止まったような鏡面に、傷ついた目をした男が映りこんでいた。カードデッキを握りしめ、暗闇に埋没するように立ちつくす男――まぎれもなく手塚自身だ。ゆっくりとガラスに向き直る。映りこんだ自身の瞳をまっすぐに見据えた。
(……何かが、来る)
ぽつん、と。
ガラスに一点の曇りが生じた。夜目にも鮮やかな赤い点は、カードデッキと同じ色をしている。みるみるうちに大きくなるクリムゾンの色彩――それは、遙か遠方から踊るように近づいてくる、巨大なエイの姿だった。
メタリックな赤色がガラスの表面を素早く過ぎる。水面のようにわずかなさざ波が立った。優しい――そう、雄一を喰らったあの化物と同じ生き物であるはずなのに、とても穏やかでやわらかな――金色のまなざしが、手塚を観察するような光を放った。
右手でそっとガラスに触れる。
美しく長い尾を芸術的な角度で翻し、エイが戻ってきた。
「お前が……」
その先は、言葉にならない。鏡面から突き出された頭部をそっとなでる。金属光沢が嘘としか思えない生物的な感触が、やわらかく掌を押し返した。
『戦え。戦い、望みを叶えろ』
ふ、と耳朶に吹きこまれる声。それは、心の深奥、深層心理の泉の奥底に沈むかそけき願いを揺り起こすような、絶対的な力を持っていた。全身に甘美な毒の回る感覚。
ゆるやかに波を立てる水面が突沸する。砂が巻き上げられ、透明な水が濁る。無遠慮な手がさらに泉の底をかき回した。
膝を衝撃が突き抜けた。気づいたときには、ガラスにすがるようにしてその場に膝をついていた。カードデッキが表面を掻き、耳障りな音をたてる。
手塚は小さく頭を振った。
「俺は戦わない」
ずん、と圧力が増す。金属をすりあわせるような音はさらに激しさを増し、鋭敏な神経をすりつぶそうとする。
水が、濁る。一滴の清水も許さないというように飽和する――。
だが。
不意に、音が途切れた。電源を落としたように声が消える。暴れ狂う水面に、調和の兆しがわずかにのぞいた。
「……消えた?」
こぼした吐息は思いの外熱っぽい。全身に薄く汗が浮いている。ぞっとした。
ゆっくりと立ち上がると、鏡面の向こうのクリムゾンも動いた。手塚を押し上げるようにヒレが舞い、尾がくねる。
右の掌に、エイの鼻先が触れていた。冷たくもなくあたたかくもないこの温度が、狂気に呑まれようとする泉に静謐を取り戻したのか。
気遣うような黄金のまなざしが左手のカードデッキに向けられる。
ガラスから離れ、カードデッキに指を滑らせたのは、その意図を察したからだ。
待ちかねたようにその場に留まり、ゆったりとヒレを波打たせるエイ。その目の前に、空白のカードを差し出した。
――契約。
エイが鏡面を突き抜けた。手塚の奥底の泉に滑りこむように、まっすぐに飛びこんでくる。左腕を軽く広げ、手塚はエイを受け入れた。胸を貫くやわらかな衝撃、全身を駆け抜ける力の奔流――クリムゾンの光がスパークし、脳裏にあざやかな像を焼きつけた。
目がくらむ。カードがすべり落ちた。目元を抑え、軽く首を振る。目を上げると、心配そうに顔を覗きこんでくるエイの姿があった。拾い上げたカードには、クリムゾンの影が映りこんでいる。
きぃん、と耳を刺す音が駆け抜ける。エビルダイバーの名を得たエイの背後を、青と緑の異形が駆け抜けた。
エビルダイバーは、手塚を誘うように異形を振り返った。
「……いつか、雄一を殺した奴とも遭うだろうな」
クリムゾンの鎧に包まれた手塚は――仮面ライダーライアは、波打つ鏡面へゆっくりと歩み寄った。
わかっている。ライアとして生きられる時間は、あまり長くはない。近い将来、命の道が途切れていることを知っている。
きっと、後悔せずに逝くだろう。
「行くか、エビルダイバー」
戦う。戦いを止めるために、戦う。決して誰かの命を奪ったりはしない。
唯一の戦友を従え、ライアは鏡の向こうへと飛びこんだ。
* * *
私の中では手塚の存在が大きすぎて、彼の死後の龍騎は見られません(´・ω・)
手塚はただひとり、ひとけのない通りを歩いている。警察から解放されたのがほんの30分ほど前。ほとんどの街路灯が消されたオフィス街は暗く、冷たく黙りこんでいる。平時ならば、視界を遮る闇にわずかな恐れを抱きもしただろう。
だが、今は何も感じなかった。
胸郭に触れれば、今しも鮮血があふれ出しそうな気がする。友を失った痛み、見ているしかなかった絶望、何より、友の選んだ道に先はないと知りながら――その顛末を見はるかしていながら、何一つ有効な手を打てなかった自身への失望。
どんなに言葉を尽くしても足りない。
運命は変えられるはずなのに、何もできなかった。
(俺の占いは当たる……が。無意味だな)
このまま何も変えられないのなら、この力を憎む日はそう遠くはないだろう。
ポケットの中で手を握りしめる。固く、冷たい感触が素肌の指に触れた。脳裏をかすめるあざやかなクリムゾン。体の中央を貫くわずかな衝撃に、重い足取りが止まる。胸の奥が鈍くうずいたのは、これから始まる共食いの予感か。
猛毒の重金属のようにその存在を声高に主張するのは、決して体温になじまぬカードデッキだった。
友人が唯一遺したもの。
思わず現場から拾い上げ――没収されることもないまま、今、こうして手元にある。
(雄一は、戦いを拒んで喰われた)
カードデッキを取り出す。クリムゾンの色彩の中央で輝くのは、エイにも似た黄金色。夜の暗がりと遠い街路灯の明かりを宿して、濡れたような光を撓める。
ふと、頭蓋の内側で小さな音が弾けた。きぃん、と鼓膜を刺すような鋭い音が響く。目を上げる。壁面いっぱいを覆い尽くすガラスは、鏡のように沈黙していた。
その、時の止まったような鏡面に、傷ついた目をした男が映りこんでいた。カードデッキを握りしめ、暗闇に埋没するように立ちつくす男――まぎれもなく手塚自身だ。ゆっくりとガラスに向き直る。映りこんだ自身の瞳をまっすぐに見据えた。
(……何かが、来る)
ぽつん、と。
ガラスに一点の曇りが生じた。夜目にも鮮やかな赤い点は、カードデッキと同じ色をしている。みるみるうちに大きくなるクリムゾンの色彩――それは、遙か遠方から踊るように近づいてくる、巨大なエイの姿だった。
メタリックな赤色がガラスの表面を素早く過ぎる。水面のようにわずかなさざ波が立った。優しい――そう、雄一を喰らったあの化物と同じ生き物であるはずなのに、とても穏やかでやわらかな――金色のまなざしが、手塚を観察するような光を放った。
右手でそっとガラスに触れる。
美しく長い尾を芸術的な角度で翻し、エイが戻ってきた。
「お前が……」
その先は、言葉にならない。鏡面から突き出された頭部をそっとなでる。金属光沢が嘘としか思えない生物的な感触が、やわらかく掌を押し返した。
『戦え。戦い、望みを叶えろ』
ふ、と耳朶に吹きこまれる声。それは、心の深奥、深層心理の泉の奥底に沈むかそけき願いを揺り起こすような、絶対的な力を持っていた。全身に甘美な毒の回る感覚。
ゆるやかに波を立てる水面が突沸する。砂が巻き上げられ、透明な水が濁る。無遠慮な手がさらに泉の底をかき回した。
膝を衝撃が突き抜けた。気づいたときには、ガラスにすがるようにしてその場に膝をついていた。カードデッキが表面を掻き、耳障りな音をたてる。
手塚は小さく頭を振った。
「俺は戦わない」
ずん、と圧力が増す。金属をすりあわせるような音はさらに激しさを増し、鋭敏な神経をすりつぶそうとする。
水が、濁る。一滴の清水も許さないというように飽和する――。
だが。
不意に、音が途切れた。電源を落としたように声が消える。暴れ狂う水面に、調和の兆しがわずかにのぞいた。
「……消えた?」
こぼした吐息は思いの外熱っぽい。全身に薄く汗が浮いている。ぞっとした。
ゆっくりと立ち上がると、鏡面の向こうのクリムゾンも動いた。手塚を押し上げるようにヒレが舞い、尾がくねる。
右の掌に、エイの鼻先が触れていた。冷たくもなくあたたかくもないこの温度が、狂気に呑まれようとする泉に静謐を取り戻したのか。
気遣うような黄金のまなざしが左手のカードデッキに向けられる。
ガラスから離れ、カードデッキに指を滑らせたのは、その意図を察したからだ。
待ちかねたようにその場に留まり、ゆったりとヒレを波打たせるエイ。その目の前に、空白のカードを差し出した。
――契約。
エイが鏡面を突き抜けた。手塚の奥底の泉に滑りこむように、まっすぐに飛びこんでくる。左腕を軽く広げ、手塚はエイを受け入れた。胸を貫くやわらかな衝撃、全身を駆け抜ける力の奔流――クリムゾンの光がスパークし、脳裏にあざやかな像を焼きつけた。
目がくらむ。カードがすべり落ちた。目元を抑え、軽く首を振る。目を上げると、心配そうに顔を覗きこんでくるエイの姿があった。拾い上げたカードには、クリムゾンの影が映りこんでいる。
きぃん、と耳を刺す音が駆け抜ける。エビルダイバーの名を得たエイの背後を、青と緑の異形が駆け抜けた。
エビルダイバーは、手塚を誘うように異形を振り返った。
「……いつか、雄一を殺した奴とも遭うだろうな」
クリムゾンの鎧に包まれた手塚は――仮面ライダーライアは、波打つ鏡面へゆっくりと歩み寄った。
わかっている。ライアとして生きられる時間は、あまり長くはない。近い将来、命の道が途切れていることを知っている。
きっと、後悔せずに逝くだろう。
「行くか、エビルダイバー」
戦う。戦いを止めるために、戦う。決して誰かの命を奪ったりはしない。
唯一の戦友を従え、ライアは鏡の向こうへと飛びこんだ。
* * *
私の中では手塚の存在が大きすぎて、彼の死後の龍騎は見られません(´・ω・)
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